GOSAT-GWは、発生電力5.0kWの中型(2.9 t)の衛星で、2024年度にJAXA種子島宇宙センターからH-IIAロケットで打ち上げられます。軌道は、GOSATと同じ高度666 ㎞、回帰日数3日の太陽同期準回帰軌道で、日中に南東から北西に昇交し、赤道通過地方太陽時は午後1時30分になる予定です。
GOSAT-GWには、温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)という回折格子型イメージング分光計が搭載されます。GOSATとGOSAT-2では、近赤外から熱赤外までの広い波長域で高い分光分解能を得るためにフーリエ変換分光計(FTS)を搭載しています。一方、TANSO-3の場合、詳細な排出源近傍の観測において必須となる高空間分解能化、及び広い観測幅での温室効果ガス濃度の画像化を実現するため、フーリエ変換型の代わりに二次元の回析格子型の分光計が採用されました。
TANSO-3は、主要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、さらに大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)を観測します。NO2の情報からは、化石燃料の燃焼によるCO2排出源を特定し、その排出源から排出される排煙(プルーム)の形状を正確に把握することができます。TANSO-3は次の3波長帯で観測します:0.45 µm付近のバンド1はNO2, 0.76 µm付近のバンド2は酸素(O2)、1.6 µm付近のバンド3はCO2とCH4をそれぞれ観測対象としています。地表面で反射された太陽光が気体それぞれの吸収特性に応じて吸収され、TANSO-3により観測されます。これらの物理学的特徴を最適推定法などの数学的手法により詳細に解析することで、CO2, CH4などの気体のカラム量(地表面から大気上端までの鉛直の柱に含まれる分子量)と地表面気圧を求めることができます。これらのデータは最終的にCO2とCH4それぞれの、カラム中の乾燥空気全量に対する平均濃度(カラム平均濃度、それぞれXCO2, XCH4)に換算されます。一方、NO2のカラム量は既存の差分吸収分光法(Differential Optical Absorption Spectroscopy: DOAS)により算出します。その他、バンド1と2のデータは、雲の検出にも利用されます。さらにバンド2のデータからは、陸域植生の光合成活動の重要な指標である太陽光励起クロロフィル蛍光(Solar Induced chlorophyll Fluorescence: SIF)を取得することができます。
GOSAT | GOSAT-2 | GOSAT-GW | |
---|---|---|---|
打上げ年・設計寿命 | 2009年・5年 | 2018年・5年 | 2024年度・7年 |
衛星質量・発生電力 | 1.75 t・3770 W | 1.8 t・5000 W | 2.9 t・5200 W |
軌道 | 高度666 km・3日回帰・降交点通過地方太陽時:13:00 | 高度613 km・6日回帰・降交点通過地方太陽時:13:00 | 高度666 km・3日回帰・昇交点通過地方太陽時:13:30 |
分光計 | 温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS) | 温室効果ガス観測センサ2型(TANSO-FTS-2) | 温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)(回析格子型) |
主な観測対象 | CO2, CH4 | CO2, CH4, CO | CO2, CH4, NO2 |
観測波長帯 | 0.7 / 1.6 / 2 µm + TIR | 0.7 / 1.6 / 2 µm + TIR | 0.45 / 0.7 / 1.6 µm |
分光分解能 (サンプリング間隔) |
0.2 cm-1, (≈ 0.01 nm @ 0.7 µm, ≈ 0.05 nm @ 1.6 µm) |
< 0.5 nm @ 0.45 µm, <0.05 nm @ 0.7 µm, < 0.2 nm @ 1.6 µm |
|
観測幅 | 個別1~9点 | 個別5点 | 切替可能:911 km(広域)・90 km(精密) |
フットプリントサイズ(直下視) | 10.5 km | 9.7 km | 切替可能:10 km(広域)・1~3 km(精密) |
ポインティング | ±20 /±35 deg (AT/CT) | ±40 /±35 deg (AT/CT) | ±40 /±34.4 deg (AT/CT)(精密) |
その他の機器 | 雲・エアロソルセンサ(Cloud and Aerosol Imager: CAI) | 雲・エアロソルセンサ2(Cloud and Aerosol Imager 2: CAI-2) | 高性能マイクロ波放射計3(Advanced Microwave Scanning Radiometer 3: AMSR3) |
GOSAT-GWは、地表や海面、大気などから放射されるマイクロ波を観測するセンサ(高性能マイクロ波放射計3(AMSR3))も搭載します。AMSR3はJAXAの衛星であるADEOS-II(2002~2003)、NASAのAura(2002~)、JAXAのGCOM-W1(2012~)にそれぞれ搭載されたAMSR, AMSR-E, AMSR2の後継センサになります。AMSR3が取得するデータは、降水量、水蒸気情報、海氷や土壌水分量など、地球の気温や水に関するパラメータの推定に利用されます。
GCOM-WおよびGOSAT-GW(AMSR3)の状況については、以下をご参照ください。
https://www.eorc.jaxa.jp/AMSR/index_ja.html
精密観測モードでのフットプリントサイズと観測幅は3 kmと90 kmです。精密観測モード時の観測位置を変えるため、TANSO-3は非常に機敏なポインティング機構を有しています。このポインティング機構により、TANSO-3は衛星直下以外の場所のターゲットを観測する際、衛星進行(AT)方向に±40度、衛星進行直角(CT)方向に±34.4度の範囲で観測方向を変えることができます。
TANSO-3の基本的な観測は広域観測モードで行われ、精密観測モードの観測は特定のユーザの観測要求に基づき行われます。精密観測モードの観測では、検証サイトに加えて、C40(世界大都市気候先導グループ)などの都市域および発電所や石油・ガス施設などの大規模排出源を対象にする予定です。またTANSO-3は精密観測モード時により、小さなフットプリントサイズでの撮像が可能となるオプション機能も有する予定です。
TANSO-3の観測データは、GOSAT-GW衛星から北極圏にある地上局を経由して宇宙航空研究開発機構(JAXA)に送信されます。JAXAは大気上端の分光放射輝度データを含むTANSO-3のレベル1プロダクトを作成し、国立環境研究所(NIES)に送信します。気体濃度などの物理量を含むプロダクトはレベル2プロダクトに区分され、NIESで作成されます。NIESでは広域観測モードと精密観測モードのレベル2プロダクトの月毎の作成を計画しています。レベル2プロダクトには二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度、太陽光励起クロロフィル蛍光、二酸化窒素(各々XCO2, XCH4, SIF, NO2) などが含まれます。また、精密観測モードのレベル2プロダクトについては、精度よりも配布までの期間を短くすることを重視した速報版も量を限定して作成する予定です。
TANSO-3の標準プロダクトは、レベル1、レベル2プロダクト共に、NIESから無償で提供されます。詳細はTANSO-3データポリシーに記載されます。
GOSAT-GW TANSO-3 ミッションに関するNIESの地上システムは主に次の3つのシステムで構成されています。
C40世界大都市気候先導グループ(C40 Cities Climate Leadership Group, C40):
https://www.c40.org/